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4日前、道を歩いていた時に不図、春の香りを感じた。「春の香り」なんてよく聞くような言葉だが、実際にそれを感じたことは今までなかった。

あたたかくて、やわらかいその風が頬に触れた瞬間、
「あ、この風は―。この香りは―。」
と思った。その風は、僕がニュージーランドにやってきた頃の、今では遥か昔のことのように感じられるその日々を、やわらかく思い出させた。

日本で「春」と言えば、「別れ」と「出会い」の季節だ。激しく移りゆく景色を目の前にして、一年前の風景をしみじみと思い出す余裕などはない。少なくとも僕はそうだった。学校に通い、3月に同級の仲間と別れる時には、一年前の4月にどんなことを感じていて、クラスメイトとはどんな風に話をしていたのかなど振り返ることなどほとんど無かった。そんな時季に振り返るのは大抵、ごく最近のできごとだった。

僕はニュージーランドにやってきてから、何度も過去を振り返り、未来を覗き、それでいてその瞬間を生きてきた。今から一ヶ月前には、僕はブレナムという田舎にある広い農場で一日中働いていたのだが、そのことはもう、半年くらい前のことなんじゃないかと感じるほどその記憶は遠い。しかしそれでいてその記憶は鮮明だ。ニュージーランドにやってきた頃のことは、もう、3年くらい前のことなんじゃないかと思う。それでもやはり、その頃のことはよく覚えているのだ。

実は、それ以前のことはよく覚えていない。はさみで切って落としたかのように、昨年10月の記憶は、ある瞬間から突然始まっている。切り落とされた側は点々とどこかに散らばっていて、手元に残った側は、その始まりから鮮明に、今この瞬間まで繋がっている。

その始まりの頃、自分の弱さや小ささを互いにさらしながら、共に生きた仲間たちはもう、ここにはいない。ああ、僕ももうここを離れるべきだな、なんてことをいま感じている。あの、「春の香り」を運んだ風が、僕にそういうことを感じさせたのかもしれない。たぶん、もう一年ここで暮らし、また新しい春がやってきても、この、「春の香り」を感じることは決してないだろう。ここはもう、僕の居るべき場所ではないのだ。

"It's always changing every seconds, and so the sky is always a perfect sky, and the sea as well." ="Illusions" by Richard Bach=

空や海が美しくあるためには、毎秒変化し続けなければならない。この一年間、僕にいつでも変化のきっかけを与え続けてくれた「ニュージーランド」もそろそろ、その効力が衰え、最後の力を振り絞ってその、「春の香り」を僕に届けたんじゃないかと勝手なストーリーを描いてみる。そして、では次は何を、どの道具を利用して変化だか進化だか退化だかを続けていこうか、などと考えるのはゲームのようで楽しい。

「一年間」という期間は、僕にとって長過ぎず短過ぎず、ちょうどよい期間だったと思う。来年の10月に僕がその、「春の香り」を感じることはないと思うけれど、それに代わる、マイルストーンみたいなものが、自分で開いた道の上にはきっと訪れると思う。

4日前の「春の香り」は、僕にそんなことを考えさせた。
by KazuFromJP | 2004-10-05 18:36 | ゲーム『人間』